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仙台地方裁判所 昭和31年(行)11号 判決 1956年11月28日

原告 片岡定雄

被告 宮城県公安委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し、昭和三十年十一月三十日、原告の保有する普通自動車運転免許及び自動三輪車の運転免許を昭和三十年十二月十三日から昭和三十一年三月一日まで停止した行政処分はこれを取り消す。被告は原告に対し、昭和三十一年二月十六日交付した自動車運転免許証備考欄中、昭和三十年十一月三十日より道路交通取締法第九条及び運転免許等に関する行政処分取扱規程第七条に基き八十日間の処分執行、とある記載を抹消せよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

(一)  原告は、被告から、昭和二十八年三月七日、免許番号第八〇七二号を以て、自動三輪車の運転免許をうけ、昭和二十九年九月十四日、免許番号第五七六一号を以て普通自動車の運転免許をうけ、その都度、各免許証を交付された。原告は、昭和三十年六月、第一貨物自動車株式会社に雇われ、同会社石巻営業所に勤務し、貨物運送の業務に従事している。

(二)  被告は、原告に対し昭和三十年十一月三十日、原告が同年同月二日午後十時十五分頃、普通貨物自動車宮一の六〇一八号を運転し、石巻市鍋倉前一番地において、右自動車で伊藤昭二(当四十二年)に衝突し、れき圧して、死亡させたという事由で道路交通取締法第九条第五項に基き、原告の持つている右普通自動車及び自動三輪車の運転免許を昭和三十年十二月十三日から昭和三十一年三月一日まで停止する旨の行政処分をなし、その旨被告に通知したうえ、原告が、右運転免許をうけた際に、それぞれ交付されていた運転免許証を取りあげ、昭和三十一年二月十六日第一六四三九号をもつて、免許証(一枚に併記したもの)を更新して交付したのであるが、右免許証の備考欄に「昭和三十年十一月三十日より道路交通取締法第九条及び運転免許等に関する行政処分取扱規程第七条に基き八十日間の処分執行」と記載した。

(三)  しかしながら、右行政処分は、事実を誤認し、道路交通取締法等の適用を誤つたものである。

即ち、原告は、昭和三十年十一月二日午後十時十五分頃、夜間運転の際の道路交通取締法所定の設備を附した普通貨物自動車宮一の六〇一八号を運転して、石巻市鍋倉前を石巻市内方面に向つて進行し、鍋倉前一番地先の県道交さ点で左折する際には、交さ点より約五十米位の箇所より右自動車の速度を時速約二十粁に減じ、左折にあたつて方向指示器を上げ、警音器を鳴らして、後方より走り来るスクーターの操縦者に対して合図して、右交さ点において左折した。このとき、原告の運転する自動車の約十米前方の県道上の右側を、原告と同一方向に走る自転車二台があつたので、原告はこの自転車をその左側から追い越すため、警音器で合図し、なお、右自転車に衝突しないように、原告の運転する自動車が右道路の左側渕寄りを走行するようにハンドルを切り進行し、右道路交さ点から五、六米行つたところで原告の運転する自動車の後部に、何物かが衝突したような異様な音がしたので、驚いて、自動車を停止して、後方道路上を調査したところ、原告の運転する自動車の運行した左側道路上に、スクーターが倒れ、その操縦者と思われる人(後に伊藤昭二とわかつた)が死亡しているようであつた。而して、原告は、原告の運転する自動車と、右スクーターの衝突の状況を点検してみたところ、スクーターの後尾燈が毀れ、それに細い糸切れ程度のタイヤのゴム片様の物が附着しており、一方自動車の後部左側車輪タイヤに右スクーターの塗料と思われるものが若干附着していた。この事実と右事故の現場は、右の交さ点から僅か五、六米の地点であつたことから推断すると、右伊藤昭二がスクーターを操縦して右交さ点附近で原告の運転する自動車の左側を内廻りして追い越そうとし、原告の速力を超える速度で走つて来たところ、原告の運転する自動車が交さ点を左折するや道路の左側渕近く進行するように方向を示しているため、衝突の危険を察知して、とつさに、スクーターを停止しようとし制動機をかけたところが、却つてスクーターの後尾燈が原告の運転する自動車の後部左側車輪に接触し、スクーターは横顛し、伊藤昭二は跳ね飛ばされて衝動死したものと考えられる。

(四)  右のように、原告が自動車を運転して右県道上交さ点を左折するにあたり、その前後を通じての操縦は道路交通取締法及び同法施行令に準拠した適法なものである。一方伊藤昭二がスクーターを操縦して右交さ点を左折するにあたり、右のように推察される事実のように、交さ点附近で、原告の運転する自動車の左側を内廻りして追い越そうとし、右自動車以上の速度で左折したことは、右の法令に違反した無謀な運転である。右の事故は、原告がこの伊藤の違法無謀な運転を推知し得なかつたから発生したものであつて、原告には右法令違反の責任はない。然るに、被告は右の事故の原因を誤認し、法令の適用をあやまつて、原告に対し、前述のような行政処分をなし、且つ、前述のとおり、原告の運転免許証に、運転免許停止の記載をしたのである。現在、すでに右運転免許証の停止期間は過ぎたけれども、其の間職業上重大な不利益をうけ、又、原告は自動車運転免許証の備考欄に違反事実の記載のない免許証をうける権利があるのに、昭和三十一年二月十六日被告から交付をうけた自動車運転免転証には前述のような記載があるので、原告は、被告が、原告に対し昭和三十年十一月三十日、原告の保有する普通自動車運転及び自動三輪車の運転免許を昭和三十年十二月十三日から昭和三十一年三月一日まで停止した行政処分の取り消しと、昭和三十一年二月十六日交付した自動車運転免許証備考欄中、昭和十年十一月三十日より道路交通取締法第九条及び「運転免許等に関する行政処分取扱規程」第七条に基き八十日間の処分執行との記載の抹消を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の(一)、(二)の事実は認める。その余の事実は争う。

原告は、昭和三十年十一月二日午後十時十五分頃普通貨物自動車宮一-六〇一八号を運転し、仙台市から石巻市に向う途中二級国道八戸仙台線を矢本町と石巻市の境界附近から軽自動車(スクーター)宮二三八七号に乗車し、原告と同方向に進行中の伊藤昭二と同程度の速度で互に追越しをくり返しつゝ進行し、鍋倉前一番地先交さ点手前(交さ点から仙台寄り)約百五十米の地点附近から、原告は、伊藤昭二の右側を追い越しにかゝり前記交さ点を左折するに際し、交通の安全を確めず毎時二十粁位の速度に減じたのみで左折進行したため、伊藤昭二の操縦するスクーターの尾燈に原告の左後車輪タイヤ部を衝突転倒せしめて同人をれき圧死するに至らせたもので、被告は、右の事故は原告の過失による交通事故として、昭和三十年十一月三十日その運転免許を八十日間停止の処分を決定し、同年十二月十三日から昭和三十一年三月一日まで免許停止の処分をし、その執行を終つた。原告が本訴で取り消しを求める運転免許停止処分は、既に執行されて、処分の効果が完了したのであるから、取り消しを求める利益がない。なお原告は前記のように普通貨物自動車宮一-六〇一八号を運転して、二級国道八戸仙台線を仙台市から石巻市に向けて進行途中、矢本町から石巻市鍋倉前一番地先まで、毎時約三十粁の速度で進行し、石巻市入口(石巻市と矢本町境界)附近において、スクーターに搭乗し同方向に進行する伊藤昭二(当四十二年)を進路前方に発見し、これに追縦して石巻市鍋倉前一番地先手前(仙台寄り)約千五百米附近において伊藤昭二の運転するスクーターの右側を追い越したが、伊藤昭二に追い越され公安委員会指定の最高制限速度三十二粁の道路で追縦し、前記鍋倉前一番地先交さ点手前約百五十米附近で、原告は再び伊藤昭二の運転するスクーターの右側を追越しにかゝりそのまゝ進行して、鍋倉前一番地先交さ点に差しかゝり左折進行した。このように互に同程度の速度で追い越しをくり返しながら進行して、追い越しにかゝつた直後において左折進行するような場合に、追い越しが完了していないで伊藤昭二の運転するスクーターが、自分の左側を並んで進行し、又左側直後を追縦して来ることが考慮され、更に原告は、右スクーターが前記交さ点に直進することも予想していたのであるから、自動車運転者たる者は、追い越しにかゝつた伊藤昭二の運転するスクーターが原告の運転する自動車の左側又は左側直後を追縦しているかどうかを確認し、もし追い越し未完了であるか、又は左側直後に追縦しているときには右スクーターと接触又は衝突の危険があるから除行して、安全を確かめ、右ハンドルで左側の安全を自ら確めることができないときは同乗中の助手をして安全を確認させ、又は一時停車して安全を確める等の措置を講じ、事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかゝわらず、原告は前記のような方法で安全を確認することなく、交さ点まで約百五十米の地点で追い越しにかゝり、単に速度を毎時二十粁位に減じ方向指示器をあげたのみで、伊藤昭二の運転するスクーターのことは全然考慮することなく、進路前方を同方向に進行中の自転車搭乗者のみに気を奪われ、漫然左折進行したため、原告の左側を並んで進行していた伊藤昭二のスクーターの後尾燈に自己の運転する自動車左後車輪タイヤ部を衝突転倒させて、同人をれき圧し、即死するに至らせたもので、被告の前記処分は何等違法ではないと述べた。

理由

先づ原告の運転免許停止処分の取り消しを求める点について按ずるに、被告は、原告に対して、昭和三十年十一月三十日、原告の保有する普通自動車及び自動三輪車の運転免許を昭和三十年十二月十三日から昭和三十一年三月一日まで停止する旨の処分をなし、これを原告に通知したこと、右処分は既に執行を終えていることは当事者間に争いがない。行政処分の取消請求は、その処分の効果が現に継続しており、違法な処分の取り消しによつて、右の処分がなされたため失われた権利を回復しうる間に限り右処分を取り消すにつき訴の利益があるものとして許されると解されるところ、本件では運転免許停止処分の期間を経過し、執行を了えているので、右処分の取り消しを求める法律上の利益を有しないから、右処分取消の請求は理由がない。

次に、被告が原告に対し昭和三十一年二月十六日交付して自動車運転免許証備考欄中、運転免許停止処分の執行の記載の抹消を求める点について按ずるに、前認定のように既に運転免許の停止処分の期間を経過し、原告は現に運転者として以前と同一の権利を有しており、自動車運転免許証備考欄中に、原告主張のような停止処分がなされた旨過去の事実に関する記載があつても、該記載は、現在原告の権利義務に何ら影響を及ぼすものでないからこの抹消を求める法律上の利益も有しない。従つて、この請求も亦理由がない。

よつて、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 桝田文郎 平川浩子)

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